クビアカツヤカミキリは、サクラやモモなどの果樹に深刻な被害を与える特定外来生物です。
木の幹や枝に産卵し、幼虫が形成層などの木の内部を食べることで、木の枯死や倒木を引き起こします。
特にサクラやモモなどの果樹が多い日本では、クビアカツヤカミキリの被害を防がなければ生活に直結しかねません。防除の基本としてその生態を知り、効果的な対策を適切に実施することが重要です。
そこでこの記事では、被害が年々拡大するクビアカツヤカミキリの分類、分布、特徴、生活環、食害、防除法について詳しく解説していきます。
クビアカツヤカミキリの分類と別名
クビアカツヤカミキリは、コウチュウ目カミキリムシ科に属する昆虫で、学名はAromia bungiiです。別名クロジャコウカミキリとも呼ばれます。
これは、成虫が黒色で光沢があり、麝香(じゃこう)のような芳香を分泌することに由来します。
麝香とは、麝香鹿の腺から分泌される香料のことで、その香りが非常に強く、古くから香水や薬品の原料として利用されてきました。クビアカツヤカミキリの成虫が分泌する芳香は、麝香に似た香りを持つため、このような別名がつけられています。
また、英名ではred-necked longhornやplum longhorn beetleなどと呼ばれます。これは、成虫の前胸が赤色であることや、サクラやウメなどのバラ科樹木に寄生することに関係しています。
クビアカツヤカミキリの分布と移入経路
クビアカツヤカミキリは、中国、モンゴル、朝鮮半島、台湾、ベトナムに自然分布しています。日本では、2012年ごろに愛知県で初めて侵入が確認され、その後、埼玉県、群馬県、東京都、大阪府、徳島県、栃木県などで被害が相次ぎました。
具体的な移入経路については不明ですが、海外の事例を踏まえると輸入貨物や木製梱包材に随伴して侵入したと考えるのが妥当です。
日本に侵入して以降は、成虫の飛翔による分散の他に、トラックの荷台などに成虫がはりついて運ばれるなど、人の移動に便乗し生息地が拡大していっています。
クビアカツヤカミキリの特徴
ここではクビアカツヤカミキリがどのような見た目をしているのか、生態の概要をまとめていきます。
成虫の形態と雌雄の見分け方
クビアカツヤカミキリの成虫は、体全体が光沢のある黒色で、赤色の前胸が目立ちます。
雌雄は触角の長さで見分けられます。触角の長さと体長がほぼ同じであれば雌、触角が体長の2倍近く長ければ雄です。
成虫の体長は3~4cmのものがほとんどですが、個体差が大きいのも成虫の特徴といえます。
幼虫の形態と寄生場所
クビアカツヤカミキリの幼虫は、サクラやウメ、モモなどの木に寄生し、木部を食べて育ちます。
特に初期の幼虫は幹の表面から少し内側にある「形成層」付近を食べて成長します。
形成層は木の中で養水分を運ぶ役割を担っているので、幼虫が食害すると枝の枯死にも直結するほど危険です。
1本の木を多くの幼虫が加害すると、1年から数年で枯死してしまうような被害速度となっています。
クビアカツヤカミキリの生活環
クビアカツヤカミキリの生態を詳しく知るために、生活環についても押さえておきましょう。
産卵期と産卵場所
クビアカツヤカミキリのメスは、交尾後、幹や枝の樹皮の割れ目などに産卵します。
産卵は太い幹や露出した根にも行いますが、細枝は産卵対象になりません。人間の目線の高さから樹高5m程度で産卵をすると考えましょう。
産卵期は早い年には6月上旬から始まります。メス1頭あたり、平均約350個、最大で1,000個以上の卵を産むこともあります。
これはカミキリムシのなかでも格段に多い産卵数で、驚異的な数だと評価されてきました。
幸いすべての卵が孵化するとは限りませんが、国産のカミキリムシにはない繁殖力の高さです。
孵化期と孵化条件
産卵後、約2週間で卵は孵化します。孵化した幼虫はすぐに樹皮下に潜り込みますが、樹皮が厚く、うまく形成層まで到達できなかった孵化幼虫は脱落します。
いっぽうで形成層まで到達した個体は、樹脂にのまれることがない限り成長を続けます。
孵化幼虫の生存確率は樹種によって異なるとの研究結果はありますが、自然下では生存率の高い「ソメイヨシノ」や「モモ」などに産卵するため、大きな差はないでしょう。
幼虫期と食性
クビアカツヤカミキリの幼虫期間は、基本的に2年間です。冬の間は活動を休止します。
前述のとおり幼虫は、幹の表面から少し内側にある内樹皮の部分を食べて成長しますが、蛹になるのは樹木の心材部分です。穿孔が多くなれば腐朽菌が入り込み、倒木のリスクが高まってきます。
上記の画像は幼虫が食害するときに出す「フラス」という木くずです。このフラスの量が多いほど、侵入している幼虫の数も多いと判断してください。
初期のフラスはうどん状で、樹木の樹脂が混ざることでこのような形状をしており、同様なフラスを出すカミキリムシはいないという特徴を持っています。
サクラやモモなどの果樹でこのようなフラスが現れたら、クビアカツヤカミキリを疑いましょう。
なかには形成層を食い荒らされ、樹皮が大きく崩れ落ちてしまったという被害も見られます。
蛹期と蛹室
クビアカツヤカミキリの幼虫は、2年目の夏に木部に蛹になるための部屋(蛹室)を作ります。その中で3年目の初夏に蛹になり、約1ヶ月ほどで羽化をするというサイクルです。
成虫期と活動時間
クビアカツヤカミキリの成虫は、6月から8月にかけて活動します。クビアカツヤカミキリの成虫の寿命は、2週間から1か月程度です。
晴れた日の日中に活発に動き回り、黒く光る大型の昆虫が木から木へと飛んでいく姿が確認できます。
基本的に雄は樹上に待機し、麝香を放つことで雌への存在をアピールします。交尾をすれば日中に産卵活動を行うので、雌雄ペアで潜んでいる姿を見るケースも多いです。
クビアカツヤカミキリの被害
これまでお伝えしてきている通り、クビアカツヤカミキリは、サクラやウメ、モモ、ハナモモなどのバラ科樹木を食害して枯らしてしまう外来種です。
特にサクラの大敵とされ、公園や街路樹に大量に植樹されているソメイヨシノの被害が目立ちます。
被害拡大防止の観点からサクラが伐倒されるケースもありますが、季節の象徴となる木であることから、近隣住民との対立も相次いでいます。
また、モモやウメへの食害は、果樹の生産量の低下により農家さんの収入減に直結してしまうものです。
特定外来生物になったことで伐採や再植樹に補助金がおりるようになりましたが、生活の生命線でもある果樹を伐倒するのは心苦しいものがあります。
クビアカツヤカミキリの防除法
クビアカツヤカミキリの防除法には、物理的防除と化学的防除の2種類があります。
物理的防除は、薬を使わずに人の手や人工物で防除する方法で、伐倒駆除や網巻き防除などが例です。
化学的防除は、薬剤を使って防除する方法で、樹幹注入処理や散布、燻蒸処理などがあります。
これらについて、詳しく解説しています。
薬剤による防除法と効果
薬剤による防除法の効果については、いくつかの研究が行われています。
例えば、クビアカツヤカミキリ成虫に対する各種薬剤の殺虫効果を評価した研究では、有機リン系剤やネオニコチノイド系剤などが高い効果を示したことが報告されています。
また、樹幹注入処理における薬剤の選択や施用時期に関する研究では、幼虫が活動を再開する晩春や1年目の孵化幼虫が穿孔を開始する夏期に実施することが効果的であると示されました。
薬剤防除は、クビアカツヤカミキリの被害を抑える有効な手段ですが、いくつか注意が必要です。
その一例は、果樹には農薬防除をしにくいという点です。くだものを生産する樹木には基本的に樹幹注入はできませんので散布が中心となります。また、樹幹注入剤は薬効が短いために、繰り返し行うと水を吸い上げる道管が壊死して枯れて樹木がしまいます。
加えて薬剤の使用には農薬登録や安全性の確保などの問題もあります。薬剤による防除法を実施する場合は、必ず専門家や行政機関と連携し、適切な方法で行うようにしましょう。
ネットによる防除法と効果
ネットによる防除法とは、クビアカツヤカミキリの成虫が木に産卵したり、羽化後に拡散したりするのを防ぐために、木の幹や枝に網を巻く方法です。この方法は、薬剤を使わない物理的防除の一種で、環境への影響が少ないという利点があります。
ネットによる防除法の効果についても研究が行われてきました。サクラ並木でネットを巻いた木と巻かなかった木の被害状況を比較した研究では、ネットを巻いた木では被害が大幅に減少したことが報告されています。
また、ネットの種類や巻き方による効果の違いを検討した研究では、目の細かいネットや幹だけでなく枝も巻くことや、スカート状にふわっと巻くと効果的であることが示されています。
しかし、定期的に網内の成虫を捕殺しないと、交尾、産卵が進んでしまうという側面もあります。
確かに拡散防止には効果がありますが、定期的に見回りをしないとより一層繁殖させかねません。
結果的に膨大な数の幼虫が侵入し、木を枯らしてしまう原因になることも問題視されています。
まとめ
この記事では、クビアカツヤカミキリの分類、分布、特徴、生活環、食害、防除法について詳しく解説しました。
クビアカツヤカミキリの被害を防ぐためには、その生態を知り、効果的な防除法を適切に実施することが重要です。
防除法には、薬剤による防除法とネットによる防除法などがありますが、どちらも注意点がありました。
薬剤による防除法は、環境への影響や安全性に配慮する必要があります。ネットによる防除法は、巻いただけでは意味をなさないので頻繁に捕殺を行う必要があります。
ただし、どの方法でもこれまで拡大を防止できた事例はありません。最も有効なのは伐倒駆除です。初期の侵入時には速やかに伐採することが後の被害を最小に抑えることに繋がります。
最近では、振動による防除や羽化脱出を阻害させる手法での防除、幹への産卵抑制資材の塗布、UVライトで卵を見つけて駆除する手法など様々な手段が増えてきており、被害状況や時期、クビアカツヤカミキリのステージに合わせて様々な手法を組み合わせて使うことが推奨されています。
なお、クビアカツヤカミキリは外来生物法で特定外来生物に指定されており、許可なく飼育や運搬をするのは法律違反です。
そのため、被害を確認し何らかの防除法を実施したい場合には、『外来カミキリバスターズ』へご連絡ください。